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燕石雑志

恠刀禰〈九尾附〉
狐お野干(やかん)といふよしは、和名抄雲、狐考声、切韻雲、狐、〈音胡、和名木豆禰、〉獣名射干(やかん)也、関中呼為野干語訛也と抄せり、亦野干は狐に似て、好て樹に登るもの也といふ、〈出于捜神記〉万葉集に、野干玉と書てぬばたまと訓じたるは、狐は、陰獣にして夜おむねとすればなるべし、又きつねの異名おまよはし鳥(○○○○○)といふは、人お魅すものなれば也、又伊賀専(たうめ)ともいへるよし新猿楽記に見えたり、一説に伊賀にて白狐お専御前(たうめごぜん)と唱るといへり、是は伊賀といふ文字につきていふ歟、信じがたし、専(たうめ)は和名太宇女、老女の一称なるよし和名抄に見えたり、唐山の古説に、狐は千古の淫婦也、その名お阿紫といふといへれば、こゝにも専(たうめ)と呼にやあらん、河海抄に刀女(たうめ)は狐なりといへり、