[p.0351]
塩尻
三十五
一駿河沖津の駅出はなれんとする茶店に、老婆ありて雲、援に狐あり、呼べば必来る、旅人のあたふる食お取行と、試に白餅お買て呼に、老狐森の方より出づ、人にも恐れざるさま也、彼白餅お投しかば、やがてくわへて退き侍りし、狐は毎々人お恐れ侍るに、いかでかくは近づき侍るらん、ところのものはいと怪しき事なんと語り侍る、里俗に此狐お今川新兵衛とよぶ〈賢按、今川領の時分よりの狐か、〉