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宇治拾遺物語

むかし物のけわづらひし所に、物のけわたしゝほどに、ものゝけ物につきていふやう、おのれはたゝりのものゝけにても侍らず、うかれてまかりとおりつるきつねなり、塚屋に子どもなど侍るが、ものおほしがりつればがやうの所にはくひものちろぼう物ぞかしとて、まうできつるなり、しとぎばらたべてまかりなんといへば、しとぎおせさせて、一おしきとらせたれば、すこしくひてあなむまや〳〵といふ、この女のしとぎほしかりければ、そら物つきてかくいふとにくみあへり、紙給りてこれつゝみてまかりて、たうめや子共などにくはせんといひければ、かみお二枚引ちがへて、つゝみたれば、大やかなるおこしについばさみたれば、むねにさしあがりてあり、かくておひ給へまかりなんと験者にいへば、おへ〳〵といへば、立あがりてたうれふしぬ、しばしばかりありて、やがておきあがりたるに、ふところなる物さらになし、うせにけるこそふしぎなれ、