[p.0368][p.0369]
源平盛衰記

清盛行大威徳法附行陀天並清水寺詣事清盛後憑もしく思て、〈○中略〉希代の果報哉と怪処に、或時蓮台野にして、大なる狐お追出し弓手に相付て既に射んとしけるに、狐忽に黄女に変じて莞爾と笑ひ立向て、やヽ我命お助給はヾ、女が所望お協へんと雲ければ、清盛矢おはづし、如何なる人にておはすぞと問ふ、女答て雲、我は七十四道中の王にて有ぞと聞ゆ、さては貴狐天王にて御坐にやとて、馬より下て敬屈すれば、女又本の狐と成て、こう〳〵鳴て失ぬ、清盛案じけるは、我財宝にうえたる事は、荒神の所為にぞ、荒神お鎮て財宝お得には、弁才妙音には不如、今の貴狐天王は、妙音の其一也、さては我陀天の法お成就すべき者にこそとて、彼法お行ける程に、又返して案じけるは、実や外法成就の者は、子孫に不伝と雲者お、いかヾ有べきと被思けるが、よし〳〵当時のごとく、貧者にてながらへんよりは、一時に富て名お揚にはとて被行けれ共、偵が後いぶせく思て、兼た清水寺の観音お奉憑、蒙御利生と千日詣お始たり、