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関の秋風
狸の頭(○○○)おやきて其灰お用ふれば、失心風お治すといへり、狸お得なばとく〳〵出だすべしと、国中へ触れたりければ、二三匹打ち殺して出だしけり、みるもの両の足おひらき、その毛おわけ、しばし頭おかたぶけて、こは雌なりとて笑ふ、狸のかくし所(○○○○○○)の袋は、席八つしくばかりもありといひたればなるべし、其後生ながら得たりとて、あやしき箱に入れて出だしたり、ひらき侍らずば見べきやうなし、いかゞはせんと戸おしかため、一間しつらひつゝ、いで此ふたあけよといへど、たれしもこゝろよからずとてあけず、豊田何がしおしてしひてひらかせたり、狸の足からめてありければ、惷々のみにして出でもやらず、近づけばえならぬ匂ひたへず、寄合ふ人とてもなし、とく狩人へ返しあたへよとて、又ふたお覆ひ、此ふくろは見るべうもなし、むしろ八つしくばかりなりとも、かゝるがうちには、いかでその術おなしてんやとてわらひぬ、