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嬉遊笑覧
八/方術
狐狸のばける古跡人の知たるは、泉州堺の小林寺、釣狐寺、上野国館林茂林寺などなり、これは茶釜も筆跡も今にあれど、伯蔵主は隻狂言に伝ふるのみにて、其故事おぼつかなし、狐狸の書画おかけること多く聞ゆ、其角が茶摘集、伊勢国にて狐の人につきて雲出たる、仁あれば春もわかやく木の目哉、此狐つき、日比の田夫にてぞ有ける、狐いにて後は無事なりしとなり、其筆跡正しう狐にて侍れば、歌にあやしくたへなるためしにもと書付侍る、元禄元年七月のことにやと有り、〈此たぐひ又往々あり、予(喜多村信節)も其書画どもお見しが、狐は書にて狸は画おかける多し、〉