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燕石雑志

兎大手柄
土舟、潜確願書雲、滄州有流永渠、金石皆浮、洲人以瓦鉄為船、といふ事あれば、かゝる流水には土舟おも浮ぶべし、亦ともすればとまりにしづむつち船のうきてし方ぞ恋しかりける、為家卿の歌也、この土舟は土お積たる船なるべし、夫木集にはくちふねとありて、異本につちふねと傍注せり、いづれが是なるや、又潜確類書、舟師名黄頭郎、以土勝水故名とあれば、狸が土舟お造れりと作せしは、土もて兎の水徳(すいとく)に勝ん為歟、亦佐渡国雑太(さはた)郡二つ岩といふ山に、弾三郎といふ老狸あり、其処より一里ばかり山中に、勝々山土舟の林など唱る山林あり、土俗の説に、むかし兎に擊れたる狸は、彼弾三郎が親なりといひ伝へたるよし、曩に彼地に赴きたりし友人曳尾菴いへり、こは附会の説なり、証とするに足らず、弾三郎が事は次の巻にいふべし、