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西遊記
続編二
熊胆
肥後国球〓(くま)に遊びける頃、彼地の高き人病み給ふことのありて、余〈○橘南谿〉に治療お求められけるに、熊胆お用ゆる薬なりければ、請求めて一具お拝領せり、其胆に紙札ありて皆越村新兵衛と書付たり、いかなるものぞと聞くに、猟師熊お取りたる時は、其旨お案内するに、役人来りて見分して、其熊お解かしめ、其胆に取得たる猟師の名お書付て献ぜしむる事也、故に少しも贋物の気遣ひなきなり、余が得たる胆重さ才に壱匁三分、加賀などより出る胆とは甚だ小し、此地の産は皆小さし、猶真物の事なれば、気味は甚だ上品にして、売買にある熊胆とは格別のもの也、