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秋斎間語

総別武具に猪目お明る事、猪は豪獣にて食苦不避之物也、兵士遇辛苦強敵不避之象にたとふ、松殿関白記に書れたり、又秋の寐覚下巻に雲、院の御覚他に異なりとて、高ぶる心おはしなば、後の悔もはかりがたし、猪と申けだ物は猛なる上に、松の脂お以て身おか亢め候故、箭もたつ事候はのよしなれば、其心お武士の眼として、猪の目すかす事になん覚候、よからんうへには世のそしり人のへんしうと申事、御用心候へかしなんと雲々、是一条禅閤兼良公の御作なり、本草綱目五十一に、野猪能与虎闘、或雲能掠松脂曳沙石、塗身以御矢雲々、此文お以て書給ひし物ならん、