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牛馬問

近年或僧、長崎にて大清の人と度々出会し、或時獅の事お話するに、華人の曰、獅は天竺のみにかぎらず、中夏へも折節は出る事有其かたち和漢絵に見るとおなじからず、毛彩不潔、大概尨に似て、大さも又大なる犬ほど有、此もの若出る時は、虎の猛といへども、総身おちゞめ地に僕れて、四足お空にし、口おあき、目おふさぎ、死せる者のごとくにして、動く事なし、獅是お見来て、開たる口の中へ小便おして、徐に歩み他に行、虎すこしも不動、凡そ道の五六町ばかりも行つらんとおもふ比、眼お開て、獅の後かげお見て、いよ〳〵他に行お見て、則起て逃去事、猶見苦しき有様也、虎さへも如此、況や其余おや、故に今清の代にて、溲瓶(しびん)の事お虎口といふとなん、