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窻の須佐美追加

薩摩の士の語しは、義弘朝臣、朝鮮在陣の時、足軽馬草お刈んとて、山涯へ出しに、虎一つ来て、頸もとお軽く喰へ、山深く入、手玉に取て慰こと、猫の鼠お玩がごとく、久しく成て、眼くらく心きへ入しに、虎は其上へ横たはりて眠ぬ、時移りぬるにや、此男正気付て見れば、己が上に眠居る程に、静に彼が腹お撫ければ、鼾出けり、其時己が腰に附置ける細引お臥ながらひき出し、虎の淫囊おまとひつゝ、さて静にになお眠て居ければ、その縄お大木に固く結付置、早く帰て同列引つれ往て、それお驚しければ、虎怒て前なる阻へ飛けるに、淫囊切れはなれければ、即死ける、其皮お剥て国君に奉りし、今に重器の蓋になりてあるよし語ぬ、