[p.0458]
閑窻自語
広南国貢象事
享保十四年、広南国より象おわたしゝ術おきゝしに、このけものきはめて鼠おいむゆえに、舟のうちにほどおはかり、はこのごときものおこしらへ、ねずみお入れ、うへにあみおはりおくに、象これお見て、ねずみお外へいださじと、四のあしにて、かのはこのうへおふたく、これに心おいるるゆえに、数日船中にたつとぞ、しからざればこのけもの、水おもえたるゆえに、たちまちうみおわたりて、かへるとなむ、さて象本朝にきたる事、応永十五年、南蛮よりくろき象おわたす、この外例見えず、黒象別種なり、このたびの象は灰色なり、白象にはあらず、
召覧象於内院事
同年四月、象お宮中にめし入れて、中御門院御覧あり、台盤所のまへに引くとき、象まへあしお折りける、ちく類といへども、帝位のいとたつときおしりけむ、やむごとなき事なり、御製和歌に、時しあれば人の国なるけだものもけふ九重にみるがかなしさ、のちにこの御詠草、故殿〈光臣の卿〉にたまはりて、もちつたふるなり、又この日霊元院法皇の御所にひかせて、御覧ありけるに、このたびは象かしらおたれて、恐れけるかたち見えけるとなん、御製やまとうた二首、
めづらしくみやこにきざのからやまと過ぎしの山はいくちさとなる
なさけあるきざのすがたよから人にあらぬやつこの手にもなれきて