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橐駝考
橐駝(たくだ) 駱駝(らくた) 馲駝(たくだ) 又〓牛(ほくぎう) 牥牛(ほうぎう) 封牛(ほうぎう)〈封は音峯、また犎に作る、〉 〓牛(やうぎう)
橐駝は正名なり、駱駝の駱は橐(たく)と声ちかきが故に訛(あやま)れるなり、馲は橐と同じけれども俗字なり、〓牛以下は同物異名なり、其名の出るところは、下文の引証お得て知るべし、橐はもと橐囊の橐にて、鄭玄が詩揃に小なるお橐といひ、大なるお囊といふの橐なり、橐装と連言すれば、直に旅の行装荷担の事になる、公劉(こうりう)の于橐于囊とある則旅行の事なり、駝は汎く六畜に物お負はするの称なり、漢書には駝お佗に作り、一馬お以て自ら佗負す〈趙充国が伝に〉とあり、されば橐駝の名は、此獣〈牛に非ず、馬にあらず、別に一種也、〉もと健勁の性質ゆへ、遠方へ物お負はせて搬運せしむるの義としるべし、
駝とはかりにて橐駝のことなり、すへに掲るお見て知るべし、いま荷物お幾駄〈則駝の字〉といふも、 橐駝よりきたるなり、駱は絶て駝と関からず、〈唐の抑宗咸通十二年、同昌公主お葬る時に、其柾お舁きたる人夫に、酒餅啖四十橐駝お賜りし事あり、是後世称謂の起なるべし、〉