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雲錦随筆

文政四年辛巳六月下旬、阿蘭陀国より駱駝牝牡お持渡る、同五年浪花難波新地に於て観物とす、実に往昔より未だ渡らざる珍獣なり、一説に、亜辣比亜国の内黒加の産なりといふ、牝四歳牡五歳、高さ九尺長さ二間、其頭羊に似て頂長く耳垂れ、脚に三の節ありて三に折れ、背に肉峯ありて瘤のごとし、其声〓(かつ)と曰ふ、其物喰ふこと一度に飽まで喰ひ、四五日食せず、其性寒お喜び熱お悪む、其糞烟直くに上つて狼烟の如し、其力よく重きお負ふこと千五百斤に至る、一日に百里行事最安し、又よく土中の水脈お知るといふ、本草綱目に雲、駱駝は西北番の界にあり、野駝、家駝あり、其色、蒼、褐、黄、紫、数品あり、其性寒に耐へ熱お惡む、故に夏至に毛お退く、尽るに至つて毛お概に作るべし、能く泉源水脈風候お知る、凡伏流して人の知らざる所お、駝泉脈お知て足お以て地に跑す、これお掘れば必ず水ありと雲々、