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善庵随筆
水中にて人お捕り殺すもの三つあり、一は河童、或は河太郎と雲ふ、貝原翁の大和本草に、本草綱目、渓鬼虫附錄の水虎に充つ、通雅に、水虎即水唐也、鼻厭其陰也、水経注曰、汚水径黎丘故城、又南与疎水合、疎水出中蘆県西南、東流至即県北界、東入〓水、謂疎口也、水中有物、如三四歳小児、鱗甲如鯪魚、射之不可入、七八月中、好在磧中、自〓膝頭、似虎掌爪、常没水中出膝頭、小児不知、欲取弄戯、便殺人、有生得者、摘其皐厭、可以小便、名為水唐者也、後漢郡国志注、引盛氏〓州記雲、生得者、摘其鼻厭、可少小便、名為水蘆、十道志引襄〓記雲、或有生得者、摘其鼻、可小便之、名曰水虎、孫女澄雲、皐厭者、水虎之勢也、可為媚薬、善使内也、皐厭与鼻相訛、物類相感志訛為水唐、而疎水作漱水とあれば、河童の水虎たる知るべし、然し水唐のこと、僅に此に出づるのみにて、他書に所見なし、西土には水虎の害、至りて罕なる様に思はる、〈○中略〉今この三屍〈○河童、鼈、水蛇、〉お撿視するに、河童に捕られたるは、口お開きて笑ふが如く、水蛇は歯お喰ひしばり、向ふ歯二枚かけ墜ち、鼈は脇腹章門辺に、爪お入れし痕ありて死す、これお以て分別すべし、何れも肛門は開く、世人肛門より入りて、臓腑お食ふと雲ふは非也、すべて溺死は、肛門開くものなり、何となれば、死する時口より押し入る水、肛門より出づる故に、肛門煉開せざることお得ず、