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織錦舎随筆

ちひさき水鳥
完政六年の夏、下総の国銚子浦に遊びけるに、その浦人寺井節之がいひけるは、八とせばかり先つ年の秋、この川口えめなれぬ鳥あまたむれ来りぬ、其形はまたく鴨のやうにて、羽のいろあひも鴨にことなることなく、首あおきもまだらなるもありて、足はすこし長きかたにて、大きさは雀などよりはちひきし、波の上にあまたうきいたるお、人々とらへ来て、或は池にはなち、あるひは水舟などにいれおきて、もてあそびものとせり、さて廿日ばかり有つるに、ひと日雨つよう降て風はげしく吹ければ、いづれの家なるも、いづち行けん皆なくなりぬ、年老たる人などにたづねけるに、昔よりかゝる鳥の来けんことはいひもつたへずとなんかたりける、