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百千鳥

玉子開りの事
先小鳥の類、虫餌お喰ふ物は、玉子十三日にて開る、又から餌計喰て虫類お喰ぬ鳥は、十六日にて開る、鳩の類も皆十六日也、又大鳥に至りては其鳥々々にて日数違、日数のびるも有、よく開時もあり、先たいがいの日取お印す、孔雀は玉子廿八日にて開、からくんも廿八日にて開、鵝三十日にて開、高麗雉子は廿四日にて開、錦鶏は廿三日にて開る、白鷴は廿五日、又六日かゝる也、ばりけんは三十四五日にて開る物にて長し、総体かくのごとくと言共、寒き年は日数延る事あり、夏気に成ては又早く開る事有、然ども此日取お用ひて違ひなし、〈○中略〉
玉子むきやうの事
是は幾度も手がけざれば知れぬもの也、玉子開日の前日、玉子の頭のかたの横の所、内より觜の当るところに押出したるやうに穴出来る也、右の觜の穴之所お見るに、上のから取れば、内革計あり、時に此内皮黄いろに成たるは、觜へとぢ付、其子は開割かねる物也、右気お付てよく〳〵見るがよし、右のごとく黄色になりたるは、此方にてむくがよし、口の明たる其夜か、又翌朝むく也、大分此所見様むきやう、度々手懸ざれば知れぬ物なり、むく折血多出る事あり、少しもくるしからず、又素人はむきかけて、半分にして巣鳥の腹へ入る事あり、是は猶々惡し、皆むき中より子お出し、其まゝ巣鳥の腹へ入るがよし、しばらくは首おなげてよはりたる様に見ゆる物なれども、二時計立時は、毛かはき随分達者に成る物也、此むく玉子むかざる玉子にて、大分子お落す事有もの也、くはしくは口伝すべし、書取がたし、先此趣にて考る時は、好人はおのづから覚ゆ物也、小鳥にはなし、大鳥の巣鳥にて玉子かへす類ひ計の事也、又玉子むきたる時、臍の緒いまだ納ざる子あり、少しむきやうの早き時は、右のごとし、それもさしてかまいなし、毛かはきて臍の緒もかたく干あがる物也、其時臍の緒長く干たる時は、子歩行にじやま成るによつて、干あがりて後そつと邪摩にならぬ様に、はさみ切ておくがよし、二三日たつうちに、いつともなく干て、肉際より落る也、かまひもなき物なれども、少しむきやう早き時は、右のごとし、むく時節およく考べし、