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百千鳥

諸鳥病気の事
風はれとて、急に首筋のあたりはれ上り、餌もくわず、身体自由ならず、かたまりたる様になりて目おねむり、さのみ元気も落ず、急病也、其時は早く其鳥お手に取て能々見べし、はたして風はれ有物也、猶身へ当らぬやうに皮お切也、即時に直るもの也、人のまめなどの様に、たちまちに直り、餌も喰ふ也、急に出る病気ゆへ、丈夫なる鳥にても油断ならず、折々庭籠抔へはなしおく時も、鳥には心お付て見る事、第一の心得也、
諸鳥ともに筋つまる病ひあり、とかく脊中おつよくはねて打時は、皆此病ひに成もの也、鳩の類に多く有、直りがたし、十に九は落る、又直にも落ず、長引て落る物也、むねお突たるといふは俗言なるべし、頭おつよく打ても、右の病となる也、
口気咽気といふも同じ事也、諸鳥にあり、然共先錦鶏しまひよ鳥に多く有煩ひ也、直りがたし、さして命に障る物にてもなし、人の病気などの様成る物也、鼻つまりて顔のはれる事も有、強き口気は落る物也、兎角熱してのぼるゆへ也、内おすかすやうに飼てよし、諸鳥ともに内お冷す様にすべし、
羽虫わく病ひ有、鳥の煩ひ也、又籠の内きたなき時はわく物也、大羽むしは虱の細きやうなる有、又丸きあり、何も鳥の身のわき毛の間お、くゞり歩行、早き物なり、中々取つくす事もなりがたし、其時は何鳥にても水お度々あびせてよし、又うずおせんじさまして、其水にて洗ふべし、羽虫には妙なり、
又羽虫とも付ず、糠おまきたる様に、こまか成虫、巣に付たる鶏にわく物也、是はあしき物にて、其巣お新しく取かへても又出る、前はたま〳〵巣鶏の内に、此むしわきて捨る事有しが、明和七寅とし、同八卯年、巣鳥残る所なく、此むし多わきて、玉子もひやし捨る事多し、又としに寄てかくのごとくの事有、心得の為是おしるす、人の身へうつりても、こと〴〵くさして悪虫也、塩湯又は火おもやして、焼ころすがよし、此明和の七八両年は、大日照ゆへ、かくのごとく虫も春より出し歟、並薬之事、くんろくおせんじ、さまして洗ふもよし、右何にても洗わんと思ふ時、其鳥お手に持、毛お逆に撫て、毛の間々へ先たばこの煙お吹込べし、虫浮て毛へ散乱するもの也、其所お早く右の水にて洗ふべし、羽むしには妙なり、
又右のごとくなるこまかなるむし、座鋪中へちる時は、外の鳥へもうつり、人へもうつる物なり、畳のうへに落たるには、火のしに火おつよくして、其散たるあたりへかけるがよし、みな火にあたりて死す也、