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閑窻自語
通鳥語女語
前対馬守藤原祐良〈家人図書寮〉かたりけるは、万里小路前大納言尚房卿、としひさしくつかはれける女の、鳥のこえおよくきゝしるよし、かねて聞きおき侍りしに、ある日かの家にまいりて待ちいけるあいだに、からすのいとうなきければ、かの老女おくの方よりいできて、あしきからすなきかな、人にけがあやまちあるにこそといひしほどに、しばしありて台所に下仕の女の、庖丁にて手のゆびおきりしとてなきさわぐ、さてこそかの鳥の音おしるときゝしに、つゆたがはざりけりと感ぜしにこそ、公冶長のためしもおもひいでゝ、ふしぎなる事なり、
公冶長並百鳥語書事
少納言藤原通憲入道〈信西〉の所持の書目錄あり、めづらしき書ども多し、そのうちに公冶長並百鳥語一巻としるせり、むかしはかゝる書もわが国にわたりけむ、今は人の国にものこりしやきかまほし、