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燕居雑語

湯島根生院群雀
天保四年癸巳の七月半の比より、湯島根生院の境内樹木喬々然として、蔚茂したるが中に、黄昏より雀幾百千といふことお知らず群集りける、凡一月ばかり、皆二隊に分れて、闘ひつゝ地に墜て死するも有るなどゝて、見に集る者多かりき、瑜〈○日尾〉も講書の帰るさに立寄て須臾見たりしが、雀の幾群も〳〵飛来ることは、度々なりしかども、闘ひけるさまにはあらざりき、或は雲東叡山焼失し、また土木お経営すとて、喬木の枝ども多くもぎおろしたれば、小鳥共が棲にまどひて、斯くは集るなどいへり、案ずるにこはまさしく雀にはあらで、あとりといへるものなるべし、