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甲子夜話
三十
東行記に、備前国力ヾ戸と雲お行けば長堤あり、高して右左芝生ひ其上お往来す、右は吉井川なり、川幅広く底も深し、その左見わたしの丘に神祠あり、四面松生て皆喬木なは、其木末に鸕鷀鷺群棲して鳴声至て噪し、路祠相去ること数町余にして、其声よく聞ゆ、又二禽倶に巣お成し(○○○○○○○○)、子お育するさま殊に奇らし(○○○○○○○○○○○○)、鷺鷀黒白の混棲可咲、されど共に水禽なれば、漢土の鳥鼠同穴よりは、類お同すとも雲べきなり、此鳥糞条幹に被りて、白色景雪に似たり、さしもの大木皆これが為に枝葉剥落し、枯木の如し、又この神祠は長船明神と雲て、鍛冶の神なりと伝、