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大友興廃記

藍沢兵部丞鶴お買取事
豊後府内の住人藍沢兵部丞と雲者は、佐伯惟真の高家の侍也、平生白地たる事おつくす、故にさまざまの咄し多き者なり、〈○中略〉或時府内の町見世棚に、鶴と雅お出しおく、兵部たち寄り鶴かわんと雲て、雅おとりあげて、頭より尾までなでゝ、此黒鶴はいかほどにうるぞと雲、亭主此人は聞へ有件の藍沢なり、雅お売てよきあきなひせんと思ひ、其黒鶴は五百文と雲、兵部此黒鶴は何れよりもちとちいさきほどに、二百文にうれと雲、からすのねにはよきと思ひ、さらばまけて二百文にうらんといふ、代物二百お渡し、雅おば投のけ、鶴お取て草履取にもたせ出る、亭主是は狼藉なり、此くろき鳥おこそうりて候へとて、押とめんとする、其時兵部鶴と雅お我見しらぬ事の有べきか、我は鶴のねおしてかふたるぞ、是非我お狼藉者といはゞ、奉行所へつれ行て穿鑿お遂、首おきらん、にくき奴が雲分なりと、嗔りければ、町人理にまけて押留る事協ず、樽肴色々お調へ、所司代寒田所へ持参し、狼藉の押買にあひ、藍沢殿に鶴おとられ候、立置るゝ御法度の札にも押買狼藉の事は、初条に御座候、急度仰付られ候べしと申、則寒田藍沢および、其子細おきけば、慥に鶴の直段おとげ、かひ取たると、対談に申によつて、藍沢が理に成ぬ、町人が藍沢お侮て雅お鶴にしてうらんとせし非道に付て、三十日牢者す、其後町人のわび言によつて、牢者おゆるさる、