[p.0555][p.0556]
西遊記

渡り鶴
琉球近き島に屋久島といふ島、大なる島にて、むかしは日本の外なる一け国として、国史などにも、屋久国人来朝するなどゝ見えたり、此島に八重岳とて、高さ十三里の高山あり、〈○中略〉すべて南国の鶴、春に至り北方に渡らんとする時は、数千里の北海お一飛に越へ行事ゆへに、羽つかれて海中に落んことお恐るゝゆへにや、此屋久島の八重岳お廻りて、空高く飛上り、虚空に至りて、それより北に向ひて飛渡るなり、中途にて羽つかれて、次第に落るといへども、高くより、飛事ゆへに、容易に海面まで落る事なくして、朝鮮の地方へ付く事とそ、此八重岳の絶頂よ力猶々舞々して虚空に入事なれば、人の目も及ばざる高くに入りて、はじめて北に向ふなり、