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有徳院殿御実紀附錄
十四
葛西の辺にわたらせ玉ひし時、松の枝に鸛のとまりたるお御覧あり、鉄砲にて打玉はんとし玉ひしが、鸛がかまびすしくはしおならしければ、さてはこの梢に巣あると見えたりと仰あり、近習の人々近くよりてみるに、はたして巣あり、さらば打せ玉ふまじとて、鉄砲お侍臣にわたし玉へり、そのほとりに鷺の居しかば、御かたはらのものこれおこそと申しけるに、鸛の巣に近ければ、鉄砲の音に巣中の雛ども驚くべしと仰ありて、これおも打せ玉はざりし、誠に御仁心の禽獣にまで及べることよと、みな感じ奉りける、