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甲子夜話
二十三
鸛は霊識ある鳥か、御蔵前西福寺の堂の棟瓦の上に、以前より巣お構ふ、予〈○松浦清〉退隠の後、浅草の邸に往来の路、しば〳〵彼寺の辺お過ぐ、時に巣お望見るに、鸛或は双棲し、又は雛お育ふ、然るにその空巣お見ること両三日なり、乃従行の人に問ふ、鸛なし、何なる故やと雲へども、従行も知るべきにあらざれば、不審なる由お答ふ、然に俄に彼地の溝西失火し、寺風下に在て遂に焼亡す、然れば鸛は已前にこれお知たるならん、因に雲ふ、本所五目罷漢寺の堂脊の瓦上にも、鸛巣くふこと久し、頃ろかの住持に予しば〳〵値ふ、渠雲ふ、鸛年々卵お生じ雛となり、これお育し終れば、父鳥は飛去て住所お知らず、この後は雛鳥成長して又如此と、これも又奇なり、