[p.0565]
倭訓栞
前編六/加
かり 雁は歌にもかり〳〵と鳴とよめば鳴声成べし、万葉集にも、幾世おへてかおのが名およぶとよめり、伊勢物語にはよると鳴ともいへり、一説に歌にも仮によせてよめり、秋来りて春かへり、仮の住居する鳥なれば名くといへり、蝦夷島の深山の沼には、鶴雁鴨ともに春夏の間群居す、又五十里おくなる常磐島より渡るとそ、旅雁などいへる意也、今俗音およべり、源氏にかりのつらねて鳴声かぢの音にまがへと書り、所謂雁櫓也、歌にいくつらなどよめるは雁行也、詩に雁陣ともいへり、唐雁とよぶは鵝也野雁とよぶは鴇也、海雁は頸に環の如き白毛あり、ひしくひと呼ものは鴻也、常にまだらとよぶもの雁也、俗に真雁と呼り、又腹白あり、琉球には鴻雁来らずといへり、〈○中略〉
かりがね(○○○○) 雁が音也、さるお直に雁の事になしていへり、後世一種の小雁の名とするは俗説也、一説にねはめと通ず、むれ反め、雁がむれ也、万葉集に、かりがねの声とよめる歌あり、新勅撰伊勢が歌も同じ、