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松の落葉

雁がね
雁がねはかりが音なる事、古今集の歌に、さよ中と夜はふけぬらしかりがねのきこゆるそらに月わたる見ゆ、といへるにてしるし、音のきこゆるとつゞきたる詞なり、又同集の歌に、霞ていにし雁がねはといへるは、たゞに雁おいへるやうなれど、末に今ぞ鳴なるとあれば、これも雁が音なることさだかなり、万葉集の歌にも、雁鳴(かりがね)、雁泣(かりがね)、雁音(かりがね)とぞかきたる、新古今集の定家卿の歌に、霜まよふ空にしおれし雁がねのかへるつばさにはるさめぞふる、とよみたまひしは、たゞ雁のことゝ心えたまへるさまなれば、あやまりなり、