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筆のすさび

早春一夜水野氏の夜宴にまかるに、〓肉お饗せらる、其味至て美なり、一座おのおの新鮮なるお感賞して、かの小倉の宵捕(よひじめ)などゝいふたぐひならんと各いふ、主人曰、例年の多、故郷加州金沢より饋り来す、当年は旧臘遅く発せし故、十六日ぶりにて則今日到著せしなり、総じて鴨は寒半過る時は、雄鳥は肉痩なり、雌鳥は肉少しも痩ざるなり、因て当年は雌鳥お登し、殊に収蔵の法よくて、觜の内及び両翼並に苞苴の内までも大なる山〓菜(わさび)おつめてこしたり、故に味減ぜずと雲へり、