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袖中抄
十三
にほのうきす
あふことのなぎさによするにほのすのうきみしづみゝ物おこそおもへ
顕昭雲、にほのうきすとは、にほといふとりの巣は波のうへにつくりおきてあるなれば、頼政卿も、にほのうきすのゆられきてとよめり、此義につくべし、まさしく池などにあるは、あちこちくいもてありくと人々申せり、又十郎蔵人行家が申けるは、にほのうきす、波にゆられてうかれありくことなし、蘆のくきおたよりにて、つくりつけたれば、水にしたがひてふかくなれば、したがひてうきのぼり、あさくなれば、したがひてしづみくだる、さればうきすとは雲也、此六帖のうたは、なぎさによするといへるほどは、ゆられてありく心ときこえたり、末のうきみしづみゝといへるは、あしおたよりにて、うきしづむときこえたり、又このしづむと雲は、水のしたへしづむにや、さらばうきすといふにたがひぬべし、うきすのことゞもかうもあるべし、故左京亮の申されしは、にほはあからさまにもくがへのぼらぬ鳥とぞはべりし、されば巣お水のうへにうきてつくるにや、又伯母の集には、にほは氷におつる鳥なりとかけり、高陽院歌合雪歌に、 ふみみけるにほの跡さへおしきかなこほりのうへにふれるしら雪