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無名秘抄

おなじたび〈○建春門院殿上歌合〉水鳥近馴といふ題におなじ人〈○源頼政〉
子お思ふ鳰のうきすのゆられきて捨じとするやみがくれもせぬ、此歌めづらしとてかちにき、祐盛法師これお見て、大に難じていはく、にほのうきすのやうおえしらぬにこそ、かのうきすは、ゆられありくべきものにもあらず、うみのしほは、みちひるものなれば、それおしりてにほのすおくふには、あしのくきお中にこめて、しかもかれおばくつろげて、めぐりにくひたれば、夕みてばかみへあがり、夕ひればしたがひてくだるなり、ひとへにゆられありかんには、風ふかばいづくともなくゆられいでゝ、大浪にくだかれ、人にもとられぬべし、されどその座にしれる人のなかりけるにこそ、かちにさだめられければ、いふがひなしとそ申侍し、