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古今著聞集
二十/魚虫禽獣
みちのくに田村の郷の住人、馬允なにがしとかや雲おのこ、鷹おつかひけるが、鳥お得ずしてむなしく帰りけるに、あかぬまといふ所におし鳥一つがひいたりけるお、くるりおもちていたりければ、あやまたず、おとりにあたりてけり、其おしおやがてそこにてとりかひて、えがらおばえぶくろに入て家にかへりぬ、其次の夜の夢に、いとなまめきたる女のちいさやかなるまくらにきて、さめ〴〵となきいたり、あやしくて何人のかくはなくぞと問ければ、きのふあかぬまにて、させるあやまりも侍らぬに、としごろのおとこおころし給へるかなしびにたへずして、参りてうれへ申也、此思ひによりて、わが身もながらへ侍まじき也とて、一首の歌おとなへてなく〳〵さりにけり、
日くるればさそひし物おあかぬまのまこもがくれのひとりねぞうき、あはれにふしぎに思ふほどに、中一日ありて後えがらお見ければ、えぶくろにおしの妻とりのはらおおのがはしにてつきつらぬきて死にて有けり、これおみてかの馬允やがてもとゞりお切て出家してけり、この所は前刑部大輔仲能朝臣が領になん侍也、