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文恭院殿御実紀附錄

白鴛鴦(○○○)とて、鴛鴦の全身白毛にて、頭腋の辺などいさゝの赤黒の斑文ありて、觜と足は浅紅色にて、美しく珍らかなるが有けり、享保の頃、鴛鴦の胸のあたり白毛にかはりたるに、白鴨の雌おかけ合せられしかば、其父鳥よりも白毛多くなりしお、再度白鴨雌おかけたりしとき、今の種とはなりぬるよし、有徳院殿〈○徳川吉宗〉御好にて、この一種出来せしとぞ、其後年年に雛お生じ、内庭にも吹上の苑中にも数十羽飼せらる、人間になき種なれば、目擊せぬ者も多かり、春夏の交、雛お生るときは、餌飼番の者に至るまで厳に命ぜられ、たま〳〵おちたる鳥あれば、丸むき(○○○)にしてひめ置る、日頃仰ありしは、鳥の為に番の者等労するもいかゞなれど、享保の御遺愛なれば、今もかく御扱ひありしと宣ひし、前にいへるごとく、雛お生ぜしとき、餌飼見守に命ぜられし者共には、歳抄に至りて御ねぎらひとして、物たまはる事なりとぞ、