[p.0619]
源平盛衰記
十七
蔵人取鷺事
延喜帝〈○醍醐〉の御宇、神泉苑に行幸あり、池の汀に鷺の居たりけるお叡覧有て、蔵人お召て、あの鷺取て参らせよと仰ければ、蔵人取らんとて近付寄ければ、鷺羽づくろひして既に立んとしけるお、宣旨ぞ、鷺まかりたつなと申ければ、飛去事なくして被取て、御前へ参りけり、叡覧ありて仰けるは、勅に随ひ飛去ずして参る条神妙也とて、御宸筆にて鷺の羽の上に、女鳥類の王たるべしと遊ばして、札お付て放たれければ、宣旨蒙りたる鳥也とて、人手おかくる事なし、其烏備中国に飛至て死にけり、鷺森とて今にあり、