[p.0631][p.0632]
飼鳥必用

川烏の巣子飼立候事甚六け敷、立春三十日計も致候得者、早子者かへり候、川の岸の穴、又は川中の大石に穴ある処〈江〉巣お懸、其外滝の落る脇抔〈江〉、石岸滝水の露懸る所へ、巣お青ごけお巣草にして巣組する也、巣より取揚十日計は日増に盛長いたし能く生立候得共、それよりかごの内にて狂ひ出し、無体に籠のひごおかぞへ、口お不開、何れもわり餌にて三四日も飼候内、都而相落、勿論餌のかげんは色々手おかへ、虫の類種々、餌に生鱣等小海老等お飼候而も、一向ひとり餌迄は飼候事無之、熱気の煩ひと思ひ、夜々泉水の中へ杭お立、それに籠お釣し留ても、又毎日日に三度計宛水おあびせ生立試候而も、皆々同じ煩にて巣より取揚、十日計にて巣数皆落候ゆへ、親鳥にて餌付飼より外はなきと思ひしに、然る所完政九年午夏、江戸麹町の鳥やへ、駿河町田中屋善四郎と言者、川烏の巣子生立候持越、至宜敷飼立、餌もほとにして常の鳥のごとく、籠にて飼置候ゆへ、度々右の善四郎の旅宿へ参、川烏の飼立よふお習候得共不教、依而拙旅館に相招、得と相頼、教くれ候様申候処、右善四郎も度々巣子お相落し、飼留め候事不協、夫より工夫にて鱣に十分餌お堅く合せ〈○中略〉丸め、夫にもくほうつきといふ虫お、丸めたる餌にぐる〳〵つけて飼しと也、是にて無口能生立上るとの事お教し也、