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重修本草綱目啓蒙
三十二/水禽

都鳥はかもめの属なり、その名始お万葉集に出づ、又伊勢物語にも見へたり、これに数説紛紛たりと雖ども、阿州にて都鳥と雲ひ、紀州にて紅かもめと呼ものお真物とすべし、春月は香魚(あゆの)子お追て、潮の往来する川上に登り、水辺沙上に群おなす、形鴎に似て背は灰色お帯び、腹と翼下は白色なり、故に飛ぶ時は白く見ゆ、捕へ見れば紅色のうつりありて、至て美麗観るに堪へたり、伊勢物語の文に能合へり、又清の周櫟園が閩小紀に、蒲田九鯉湖中欧作粉紅、色矯艶異常と雲へるも此属なるべし、みやこどりは鴎と雑り居る者なれば、鴎とひろく見る説も穏なれども、鴎は古よりかもめと雲和名ありて、都鳥とはいはず、形状べにかもめに似たれば、即都鳥なること疑なし、和歌者流秘事口伝などことごとしく雲故に、今詳に弁ずと、桃洞遺筆に見へたり、