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伊勢物語

むかし男ありけり、〈○中略〉あづまのかたにすむべき所もとめにとてゆきけり〈○中略〉むさしの国と、しもつふさの国とふたつが中に、いとおほきなる河あり、その河の名おばすみだ川となむいひける、その河のほとりにむれいておもひやれば、かぎりなくとおくもきにけるかなとわびおれば、わたしもりはやふねにのれ、日もくれぬといふに、のりてわたらんとするに、みな人物わびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず、さるおりしも、しろき鳥のはしとあしとあかきが、しぎのおほきさなる、水のうへにあそびつゝいおゝくふ、京には見えぬとりなれば、人々みしらず、わたしもりにとへば、これなん都鳥と申といふおきゝて、
名にしおはゞいざことゝはん都鳥我思ふ人はありやなしやと、とよめりければ、舟人こぞりてなきにけり、