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古今著聞集
二十/魚虫禽獣
院御随身右府生秦頼方、みやこどりお或殿上人にまいらせたるお、成季にあづけられて侍り、くい物などもしらで、万の虫おくはせ侍も、所せく覚へてゆゝしきものかいなるによりて、小田河美作茂平がもとへやりてかはせ侍しお、建長六年十二月廿日、節分の御かたゝがへのために、前相国〈○藤原兼経〉の富小路の亭に行幸なりて、次日一日御逗留ありし、相国みやこ鳥おめして叡覧にそなへられけり、返歌つかはすとて、少将内侍紅のうすやうに歌お書て、鳥につけて侍ける、
春にあふ心ははなのみやこどりのどけき御代のことやとはまし、おとゞ又女房にかはりて、檀紙にかきておなじくむすびつけゝる、
すみだ川すむとしきゝしみやこ鳥けふは雲井のうへに見るかな、此事兼直宿禰つたへ聞て、本主に申こひて見侍て返すとて、
都鳥芳名、昔聞万里之跡、微禽寄体、今遂一見之望、畏悦之余、謹述心緒而已、
前三河守と部兼直上
にごりなき御代にあひみるすみだ川すみける鳥の名おたづねつゝ