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飼籠鳥
十四
千鳥〈歌書〉 古歌に千鳥と詠るは、諸鳥の群お指して雲、又川風寒み千鳥鳴くなりとよみしは、江河の鳥お雲といふ説あれども、古人は其鳥の事にあづからず、隻意お寄るのみなり、又鴴の字お用るは、今の江河の千鳥お雲物なり、此鳥の水辺お行歩する事、其波の去来に随て歩むより出たるなり、俗に是お千鳥歩みと雲も、此鳥の行歩より出たる語なり、鴴の字は字書に荒鳥又飛鳥とありて、此鳥の名とするに明しがたし、又冬燕に当つ、これも拠なし、則鶺鴒の一種なるべし、諸州とも海辺及池沼の辺に来る、其形白鶺鴒に似て猶も大に、背上は灰色にて、腹は白し、尾短く觜黒く細長し、足は至て高く、其歩む事人の行歩お移すが如し、冬夜飛て諦く、甚寒郷の意ありて静なり、五月に水上の藻中に巣お作りて卵おなす、雛お取て虫飼にて飼ふべし、折々声お出すことの水辺にて鳴がごとし、常に片足お挙て独足鳥のごとし、飼法虫飼にて鶺鴒の類のごとし、