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老牛余喘
初編上
鴗 鴗お、神代の巻にそびと訓、和名抄にも曾比、壒囊抄に少微、古事記に蘇邇杼理、字鏡に曾爾と有、これみな音通ひてしかいへるなり、方言に、しよにといふは、少微に同じ、また川せみといふ、こは此鳥河のべの杭、あるは木の下枝などにいて、魚おうかゞひ、また水のうへお飛はしりて、川瀬お見る物なれば、河瀬見といへるなり、そみもせみの転りたる也、そび、そに、しよにも、また音通ひて転れるなり、背びらおそびら、背肉(せしヽ)おつじゝ、背面(せとも)おそともなどいへるに同じ、しかるに、そび、そみは、蘇邇の訛なりといふ説あるは裏表なり、さては蘇邇はいかに解べきや、さるはそみお心得かねていへるにこそ、古事記には、訛れる詞なしとかたく思へるによりて、中々にまどへるものなり、そみは訛れるにあらず、正しき語なり、されば蘇邇杼理は、すなはちそみどりにて、色のみどりと雲も彼鳥の色よりいふ言にて、その音のはぶかりたるなり、これにてそみといふがもとなるお知べし、