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庖厨備用倭名本草
十/水禽
魚狗(そひ) 倭名抄に魚狗なし、多識篇にかはせみ、元升曰、按倭名抄雲、鴗は和名そひ、爾雅お引て雲、鴗は小鳥也、色青翠而食魚、江東呼為水狗、又按細註雲、文徳天皇錄、用魚虎鳥三字、此説おみれば魚狗はそひ也、考本草、一名魚虎、是すなはち翠鳥也、土に穴して窠お作る、大なるお翠鳥と名づく、小きは魚狗と名づく、青色にして翠に似たり、其尾は飾おなすべし、亦斑白のものあり、倶によく水上に魚おとる、〈○中略〉
翡翠(ひすい/せうび)〈○中略〉 元升曰、水涯に穴してすみ、水上に魚おとるは和名そひ、今俗雲かはせみ也、本はそひと雲なるお、そとせと歯音相通じ、ひとみと開合相協ひたるにより、遂に俗舌転訛して、今はそひと雲ものなし、皆あやまりてせみと雲、さてせみと雲はもとむしの名也、彼れ是れいひわかちがたきによりて、魚狗おばかはせみといへり、たとへば獺の和名はおそと雲に、おとうと五音相通ずるにひかれて、近世俗に誤りてうそといへば、うそとは本より鳥の名なれば、獺には河の字お付て、かはうそと雲が如し、又此翡翠は倭名抄に和名なし、俗にせうびと雲、本名たるべし、かはせみと雲べからず、魚狗と形色相似たる故に、翡翠おかはせみと雲は、俗間のあやまり也、