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甲子夜話
八十
この頃聞く、予が城下〈○松浦清領地肥前平戸〉の辺鄙には、〈平戸島もとより辺邑、然れども城下は人集会す、因てかく称せり、〉海雀(うみずヾめ)と呼ぶ鳥あり、其形鳩よりは小に、鵯よりは稍大なり、羽毛淡黒にして、翼下より腹に至て白し、長翼短尾、晩秋より春後に至るまで数百連行、海波の上お飛旋ること幾回にして、其中潮に没する者多々、然らずして飛行する者は僅に百の三四なり、没する者良久して復海面に出顕れ、飛回すること始の如し、これ謝氏の所雲と異ならず、正に此鳥ならん、我邑海雀と呼ぶ者は、群飛の状雀の如くにして、海上に翔るお以て謂へども、亦漢土の所称も義同き故なり、
又この鳥、春後より夏に及んでは、海島巌穴の間に巣くひ卵お生ず、故に山に居て海に在ることなし、