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農業全書
十/生類養法

には鳥は人家に必なくて協はぬ物なり、鶏犬の二色は田舎に殊に畜置べし、是大小色々あり、唐丸とて甚大きあり、近来しやむと雲て一種あり、是又大なり、是皆体おもくして、高き所に上りかねて、狐狸にそこなはるゝゆへ、雛も生立がたし、時お作る事も正しからず、唯中鶏の毛のあかき脚の黄なるおかふべし、又雌鳥はかたちさのみふとからず、毛浅くて脚細く短きが、卵お多くうみて、雛およく生立る物なり、又雄鳥は声の小きは子少なし、黒き鶏、頭の白き、六指のもの四距のもの、死して足の申(のび)ざるもの、皆人お害すとあり、料理おするに心お用ゆべし、又五歳以下の小児鶏お食すれば、あしき虫お生ずると見えたり、多く畜はんとする者は、広き園の中に、稠(きび)しくかきおし廻し、狐狸犬猫の入ざる様に堅く作り、戸口お小さくしたる小屋お作り、其中に塒お数多く作りて、高下それ〴〵の心に協べし、猶わらあくたお多く入置て、巣お作らすべし、園の一方に粟黍稗お粥に煮てちらし置、草お多くおほへば、やがて虫多くわき出るお餌とすべし、是時分によりて、三日も過ずして虫となる、其虫お喰尽すべき時分に、又一方かくのごとく、年中絶ず此餌にて養へば、鶏肥て卵お多くうむ物なり、園の中お二つにしきりおくべし、又雑穀の枇(しいら)、其外人牛馬の食物ともならざる物お多く貯へて、はみ物常に乏しからざる様にすべし卵(かいこ)も雛も繁昌する事限なし、甚利お得る物なれども、屋敷の広き余地なくては、多く畜事はなり難し、凡雄鳥二つ雌鳥四つ五つ程畜お中分とすべし、春夏かいわりて廿日程の間は、ひな巣お出ざる物なり、飯おかはかして入れ、水おも入れて飼立べし、甚多く畜立るは人ばかりにては、夜昼共に守る事なり難く、狐猫のふせぎならざる故、能き犬お畜置てならはし守らすべし、〈但かやうにはいへども、農人の家に鶏お多く飼へば穀物お費し妨多し、つねのもの是おわざとしてもすぐしがたし、しかれば多くかふ事は、其人の才覚によるべし、〉