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枕草子

頭弁のしきにまいり給ひて、物がたりなどし給ふに、夜いとふけぬ、あす御ものいみなるにこもるべければ、うしになりなばあしかりなんとてまいり給ひぬ、つとめて蔵人所のかうやがみひきかさねて、後のあしたはのこりおほかる心ちなんする、夜おとおして昔物語もきこえあかさんとせしお、とりのこえにもよほされてと、いといみじうきよげに、うらうへに事おほくかき給へるいとめでだし、御かへりに、いと夜ふかく侍ける鳥のこえは、まうさうくんのにやときこえたれば、たちかへりまうさうくんのにはとりは、かんこくくはんおひらきて、三千のかくわづかにされりといふは、あふさかのせきの事なりとあれば、
夜おこめて鳥のそらねははかるとも世にあふさかのせきはゆるさじ、心かしこきせきもり侍るめりときこゆ、たちかへり、
あふさかは人こえやすき関なれば鳥もなかねどあけてまつとか、とありし文どもお、はじめのは僧都のきみのぬかおさへつきてとり給ひてき、のち〳〵のは御まへにて、さてあふさかのうたはよみへされて、返しもせず成にたる、いとわうしとわらはせ給ふ、