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枕草子
十二
大納言殿〈○藤原伊周〉まいり給ひて、ふみの事などそうし給ふに、例の夜いたうふけぬれば、〈○中略〉うへ〈○一条〉のおまへのはしらによりかゝりて、すこしねぶらせ給へるお、かれ見奉り給へ、今はあけぬるに、かくおほとのごもるべき事かはと申させ給ふ、げになど宮のおまへにもわらひ申させ給ふも、しらせ給はぬほどに、おさめがわらはの、庭鳥おとらへてもちて、あす里へいかんといひて、かくしおきたりけるが、いかゞしけん、犬の見付ておひければ、らうのさきににげいきて、おそろしうなきのゝしるに、皆人おきなどしぬや、うへもうちおどろかせおはしまして、いかにありつるぞと尋させ給ふに、大納言殿の、声めい王のねぶりおおどろかすといふ詩お、たかう打出し給へる、めでたうおかしきに、ひとりねぶたかりつる目もおほきになりぬ、