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塵袋

一しづのおだまきおへそといふは、人のへそににたる歟、〈○中略〉
常陸国記に、昔兄と妹と同日田おつくりて、今日おそくうへたらんものは伊福部(いふくべの)神(の)わざはひおかぶるべしと雲けるほどに、妹が田おおんくうへたりけり、其時いかづちなりて妹おけころしつ、兄大になげききてうらみて、かたきおうたんとするに、其神の所在おしらず、一の雌雉(めきじ)とび来りて、かたのうへにいたり、へそおとりて、雉〈の〉尾にかけたるに、きじとびて、伊福部岳にあがりぬ、又其へそおつなぎてゆくに、いかづちのふせる石屋にいたりて、たちおぬきて、神雷おきらんとするに、神雷おそれおのヽきて、たすからん事おこふ、子がはくはきみが命にしたがひて、百歳ののちにいたるまで、きみが子孫のすえに、雷震のおそれなからんと、是おゆるしてころさず、きじの恩およろこびて、生々世々に徳おわすれじ、若し違犯あらば、病にまつはれて、生涯不幸なるべしとちかへり、其故に其所の百姓は、今の世まで雉おくはずとかや、