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大鏡
五/太政大臣兼通
この殿〈○藤原兼通〉には、後夜にめすばうすの御さかなには、たゞ今ころしだる雉子おぞまいらせけるに、もてまいりあふべきならねば、よひよりぞまうけておかれけるなりとおのぬしの、まだ六位にて、はじめてまいらるゝ夜、御くつびつのもとにいられたりければ、ひつのうちに、物のほと〳〵としけるがあやしさに、くらきまぎれなれば、やおらほそめにあけて見給ひければ、きじのおとりはかゞまりおる物か、人のいふ事はまことなりけりと、あさましくて、人のねにけるおりに、やおらとりいでつ、ふところにさし入れて、冷泉院の山にはなちたりしかば、ほろ〳〵ととびてこそいにしか、ことしえたりし心ちはいみじかりしものかな、それにぞ我はかう人なりけりとは、おぼえしかとなんかたられける、