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飼鳥必用

白鷴
本朝へ渡初未一百年お不過、世に無多事鳥にて、夫長甚高軒にて、下賤の家に飼置事不協、三拾年已前迄は玉子かへり候而も、生立方薄く、近世庭鳥の子同様に帰り、数羽皆とも無事に相生立、是は鳥数寄の心得可有事、無多事鳥、念に念お入過し、雉子同様の鳥に、小鳥生立之心得にて、朝夕の仕事にも人お不近付、餌は至而重く拵へ羽も不切、おのれと生立に仕立、肉強く鳥は荒く人おじして胸お打、羽足お痛まして、いぬ猫お除け用心有りて、かへつて足指に痛お生じ、夫故落鳥多し、今にては粒餌に軽きすり餌にて、さまで活餌おも不飼、羽お切り広き庭へ放し、猶さわぐは儘にして差置、所相応にて皆不事に生立、鶏お料理するに牛刀お用るとは是なるべし、何れ鳥に気お付るには、先觜お能く見極め、たとへ孔雀大鳥なれども平觜にて、野山にても活餌勝相立、夫故に飼方六け鋪、白鷴は丸觜にて雉子鶏の觜と同じ、平生粒餌而巳にて生立たる鳥ならず哉、さあらば差而摺餌其外入念ては惡敷あるべし、諸鳥是に等し、雛の内鳩より小く、鶉位にて雌雄わかり兼候はゞ、足へ気お付、頭の処へ目お付、能く見分べし、鳥に心有る人は自然と分るべし、地籠之内あまり地のかたきは悪し、少しやわらかにしてよろし、堅き方は足指痛まがり候もの、しとり気有るよふに心懸け、水お引餌にて飼立、夏より秋迄稲子お飼候事宜敷、夏終日日の当り候は不宜、親鳥玉子落し候とも、二才迄はかへり薄し、三才より玉子皆かへり申候、雄は古鳥よろしきとの事は、諸事右之通、玉子は二十五日にてかへる、雛鳥の内に、早く泊り木へとめならわせ候得ば、指まがり候事無之、満足に生立、折角大振りに出来候鳥お上とする、君命屋久島○薩摩之内尾間村にて神山へ錦鳥、原村神山へ白鷴、志戸子村住吉山江白鷴放し飼お被仰付、村近く一囲の山にては候得共、大山引続にて候ゆへ、飛去深山へ飛住は案中にて、後年彼島へ相見へ、其節志しのものあらずんば、屋久島自然と生ずるとも雲べし、