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西遊記
続編二
鷓鴣九州には珍らしき鳥多し、〈○中略〉肥前肥後辺の海上に、脛高く口ばし長く少し鼠色にて、翼に白き点紋ある鳥あり、舟人にとへば、しやくといふ鳥也といふ、余〈○橘南谿〉肥後の隈本にて、ある医家お訪たりしに、折ふし彼家へ鳥お送り来れり、主持出て余に此鳥おしり給ふやととはる、先に此辺の海上にて見し鳥にて、上方にては見侍らざる鳥なりといへば、あるじ笑ふて、此鳥は唐土の南方にありといふ鷓鴣なり、船人などは言ひ誤りて、しやくと覚えたり、上方の人にはめづらしかるべければ、料理すべしとて、やがてあつものとなしぬ、其味誠に美にして、いと珍らしかりき、又其翼おこひて帰りしに、旅の日永くて、途にて鼠の為に奪はれぬ、此鳥いよ〳〵鷓鴣なりや、唐土にては南国のみにある鳥にて、多く詩に作りて、皆都遠く離れたる情お述たり、日本に鷓鴣有事お聞ざることにていぶかしけれど、彼医家も博物の人なれば、考ふる処もあるにや、