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鶉書
一問ていはく、鶉の見鳥はいかやうなるがよく候や、答ていはく、見鳥のめきゝさま〴〵ありといへども、あたる事不定なり、さりながら、かしら大きくながくして、はしねくゝらず、すゝめはし、くびながくむねいでゝかたいかり、くちひろくどうあいながく、大小によらず、いろはほうよりむねまでかきいろにて、あかふよし、いかにもふだんかごのうちしづかにして、とらへて見れば、鳥やはらかなるが上の鳥なり、かやうのとりには、ふとねおほきものなり、問ていはく、鳥見やうはいかゞ候や、答ていはく、くびたちのびて、かしらはちいさくとも、ながみあり、はしほそくくゝらずして、どうあいながく、せなかひしげて地びきなるが引鳥(ひきとり)なり、このほかいろ〳〵ありといへども、この二色第一よき鳥おほきなり、問ていはく、上のこえとはいかやうなるお申候や、答ていはく、上のこえとは、大ごえにどうよりいだし、第一ひやうしよく、いろにほひこれあり、あとおはりあげひくなり、〈○中略〉 問ていはく、やまひ鳥さま〴〵あり、見やうまたくすりやうじやううけたまはりたく候、答、〈○中略〉
一とやのときのえには、あわ、ひえお等分に合せ用候て、第一すりえ用てよし、すりえのこには、あわお粉にして、せりにてもなにてもあおみに合なり、とやのうちすなおかへまじく候、たゞしかごのうちあしきにほひ出候はゞ、かへてもよし、目のわきはり出候はゞ、そのとりはとやしまひ候としるべし、
一とやまへにつめはしつくる事、ならひ口伝あり、
一春夏のかひやうは、すな十日に一度づゝかへべし、すな水にはくろ土お一け月に四五度ほどあびせ、二け月に一度づゝ鶉お小雨にうたせて、えにはあわ、ひえお等分にしてかふべし、春ははさみむし一日に二つほどかひ、せりはこべおり〳〵用、夏はいなご一日に一つ二つ、せりくこのはとき〴〵よし、冬はあぶらえ、あわ、ひえ等分にしてかふべし、はさみむし、はだかむし、さい〳〵かふべし、とりわけいなご、はさみむしは、あるがなかにもくすりなり、とやにかゝりてよりこれにしくはなし、また見鳥の口伝、したのねあごに大事あり、ひすべし〳〵とかたりだまふ、さて老人もわれもまた鳥のふる巣にかへりける、たちざまに鶉ぶえとてあり、えのだけお一寸六分にきり三本ならべあはせ、吹口のあな三つあり、〈○図略〉鶉のひゝなき、又はふけるこえも、したのまはし、いきのつかひやうにて、いかやうにもまねるもめなり、野の鶉きゝとるにも、またつねにも用ひ侍るなり