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窻の須佐美追加

忍侍従忠秋朝臣、鶉お好みて多く集めおかれたり、その比富商、世上第一と聞ふる鶉お持しが、朝臣の御許にまいらせたきよし、立入る御旗本衆に申置けるお、或時おりよかりしにや、其事お申出られたるに、其いらへはなくて、よも山の物語時お移して後、近侍の者お呼て、聚おける鶉の籠お持来てならべよと有しかば、悉くかいつらねし時、其戸お皆開候へとてあけし程に、鶉は不残飛さりぬ、そこにて朝臣の雲、重職の人は物お好む事大なる誤にて有お、今まで心づかで、鶉数多あつめおきしに、さきの富商のよき教おきゝて、今より鶉お好む事はやめぬ、彼に此礼詞およく伝へてたべと有しかば、申せし人詞なくして出られけり、